90歳の毎日覚書

孫に教わりながら日々挑戦、健康などに役立つ話を覚え書きしていきたいです

アルツハイマー病の新薬は認知機能低下を7カ月半遅らせる

アルツハイマー病の新薬「レカネマブ」の承認が、厚生労働省の専門部会で了承されました。厚労相が正式承認すれば、アルツハイマー病の原因物質を脳から取り除く初めての薬となります。

 アルツハイマー病が初めて報告されたのは1906年。ドイツの医師、アロイス・アルツハイマー博士が、記憶障害があり、51歳で亡くなった女性の脳を解剖して調べたところ、脳の萎縮とともに脳の神経細胞の外にシミのようなものがあることを発見。「老人斑(現在はアミロイド斑とも呼びます)」と名づけました。

 

 その後、大きな進歩があったのは1980年代、この老人斑の主成分がアミロイドβタンパクであるという発見でした。さらに1990年代には、アルツハイマー病発症が多い家系の遺伝子を調べたところ、APP(アミロイド前駆体タンパク質)を作る遺伝子の変異があり、それがあるとアミロイドβが固まりやすくなることがわかったのです。そして、英国のジョン・ハーディー教授は、アミロイドβアルツハイマー病を引き起こす原因に関係しているという仮説を発表しました。

 

 そして、最大の発見であり、治療にも大きく貢献した研究は、1999年、米国のデール・シェンク博士によるものでした。アミロイドβが原因なら、脳からアミロイドβを取り除けばいいのではないか--。彼が発表した動物実験の内容は、世界の脳科学者に衝撃を与えました。コロナやインフルエンザのワクチン接種と同様に、ワクチン接種でアミロイドβに対する抗体が体内で産生。それによってアミロイドβを取り除けることを証明したのです。

 

私たちの体には、異物が入ってくるとそれに対して抗体を作り、異物を無毒化する機能が備わっています。この仕組みを利用した薬が抗体医薬。レカネマブも、抗体医薬になります。アミロイドβに反応する抗体医薬で、これを投与し、脳内のアミロイドβを除去するのです。

 ワクチン接種で体内にアミロイドβの抗体を作り、アミロイドβを除去する方法は、動物実験では成功したものの、ヒトを対象にした臨床試験で数%の患者さんに重大な副作用が見られ、中止となりました。

 

 そこで次に試みられたのが、アミロイドβに反応する抗体医薬を作り、投与する方法です。

 バピネウズマブ、ソラネズマブ、アデュカヌマブ……。アミロイドβの抗体医薬はこれまでに複数開発され、臨床研究が行われてきました。いよいよ日本でも抗体医薬が承認かと、期待が高まったのが2021年です。

 アデュカヌマブの大規模臨床試験で認知機能低下を22%遅らせるという結果が出たのですが、それは臨床試験を途中で「効果は見られない」と中断した後に追加で集めたデータで解析し直したもの、しかも2つの大規模のうち一方だけで出た結果であったことから、日本では承認は見送り。アメリカでは20年、FDA諮問委員会が承認を支持しないことを表明したものの、21年に条件付き承認(一時的な承認。新たな臨床試験の結果で正式承認かどうかの判断)となっています。

 

 一方、レカネマブは、臨床試験の主要な評価項目すべてで効果を発揮。アメリカでは、日本に先駆けて7月に正式承認となっています。

 

 レカネマブと、これまでの薬とは何が違うのか?

 アルツハイマー病の主な薬としてこれまであったのは、コリンエステラーゼ阻害薬とNMDA受容体拮抗薬。脳内ホルモンの補充や神経細胞障害を防ぐ薬で、対症療法(症状を和らげる)として使われていました。

 レカネマブをはじめとする抗体医薬は、原因物質アミロイドβを除去して、認知機能が落ちていくのを食い止めようとする薬です。国際的なアルツハイマー会議で発表された内容によると、レカネマブ投与群は、プラセボ(偽薬)群に対し、認知機能の低下を7カ月半遅らせられるとのこと。

 また別のシミュレーションでは、アルツハイマー病が軽度な状態で持続する期間が2年半から3年1カ月延びる可能性があると示されています。

 アルツハイマー病は、発症前から生活習慣の改善、適度な運動、脳を活性化する活動などを取り入れることで、発症時期や進行のスピードを遅らせられる可能性がある。ここにレカネマブなどの抗体医薬が加われば、また違った展開になるかもしれない……。そう私は考えています。