慶応大の研究チームは20日、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使って発見した全身の筋肉が徐々に動かなくなる難病「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」の治療薬候補について、患者に投与する臨床試験(治験)が完了し、安全性と有効性を確認したと発表した。iPS創薬で見つけた治療薬候補の有効性を、治験で確認したのは世界初という。
ALSは脳や脊髄の神経細胞に異常なタンパク質が蓄積するなどして発症する。国内患者数は約1万人で根本的な治療法はない。
投与されたのは、脳神経系の難病であるパーキンソン病の治療楽として広く使用されている「ロピニロール塩酸塩」。ALS患者の細胞から作製したiPS細胞を使い、病気を起こす神経細胞を体外で再現。約1200種の既存薬を投与して効果を調べ、治療薬候補として有望であることを、平成28年に突き止めた。
30年に治験を始め、発症から5年以内の患者20人に対し、最大48週間にわたり経口投与した。その結果、複数の筋肉における筋力や活動量の低下が抑制されることが確認された。
チームでは、死亡あるいは一定の病状に達するまでの病気の進行を、約7カ月遅らせられ、服用の継続により、さらに効果が上がる可能性があるとみている。
治験を主導した中原仁教授(神経内科学)は「想定以上の効果だった。iPS細胞を使って治療薬を見つけ出す方法が、本当に有効であることが治験で証明された」と話した。