90歳の毎日覚書

孫に教わりながら日々挑戦、健康などに役立つ話を覚え書きしていきたいです

「老人性うつ」克服の森村誠一 一番つらかったのは「言葉を忘れること」

人間の証明』『悪魔の飽食』など数々のベストセラーを生み出した作家・森村誠一さん(88)が、自らの「老人性うつ」体験を克明に描いた新書『老いる意味』を上梓した。苦難を乗り越えて気がついた新しい「老い方」とは。

 

 

 

──何が一番つらかったですか。

 言葉を忘れることです。作家にとって言葉を忘れることは「死」を意味します。作品は言葉のつながりですから。老人性うつ病になったときは、言葉を忘れるというより、「言葉がこぼれ落ちる」という感覚でした。

 

 闘病中、私は言葉を忘れないように筆ペンでノートに文字を書き散らしました。トイレや仕事場の壁、寝室の天井まで書いた文字を貼って文字や文章を復唱していました。お医者さまにも自分の病状や悩みを相談するときは、手紙を書いて報告しました。つらい日々でしたね。

 

 

 

──克服できた理由はなんだと思いますか。

 言葉を忘れまいと一歩ずつ元の生活へ戻れるように歩み続けた先に、光がわずかに見えてきました。手を差し伸べてくれた主治医、家族や知人に助けられた部分は多かったです。ほとんど何も食べなくなっていた私に流動食で栄養をとらせてくれたので、少しずつ体力が回復していき、気力をとりもどしていけました。

 

 そのおかげで闘う意志を持ち、言葉との格闘やふれあいが始められた。そうしているうちに、どんよりと濁った朝ではなくなり、いつもの朝が戻ってきました。3年がかりでした。

 

 

 

──老け込まないための習慣があれば教えてください。

 私は俳句が趣味です。毎日、日課のように俳句を詠んでいます。写真と俳句を融合した「写真俳句」を提唱していますが、楽しいですよ。推理小説や時代小説は犯人を捕まえ悪をほろぼす内容ですが、俳句や詩は、自分自身との対峙。また俳句はイメージを十七文字に凝縮させなければなりません。小説の世界と対極にあります。脳のリフレッシュにとても役立っています。

 

 もう一つは散歩。同じ道を毎日通っていても、新しい店ができたりします。その変化が脳への刺激になるように感じます。同じ時刻に歩いていても、春夏秋冬で表情は違ってくる。早いときには1週間で町は風貌を変えてしまう。日本の四季はいい、と改めて実感します。また散歩コースにかかりつけの医院を入れてあります。通りすがりに待合室をのぞいて、空いているようだったら診てもらう、混んでいたら素通りする。病院のためだけに出かけるとおっくうですが、散歩のついでなら時間の無駄にならない。一挙両得です。