昨今、がんにかかる人は増加しているが、死亡率は年々下がり続けているのをご存じだろうか――。「がん治療」の進化が著しいことが大きな要因の一つだ。
一方で、患者側の最新医療に関する知識がアップデートされていないばかりに、手遅れになってしまうケースも残念ながら少なくないという。
「薬が効くかどうか」を検査で調べられる
遺伝子の検査は健康保険で受けられる場合と、自費で行う場合があります。
現在、健康保険で検査できる遺伝子は、その遺伝子の異常に対する分子標的薬が保険収載されている場合に限られています。
言い換えれば、ある分子標的薬が効くかどうかを診断するために遺伝子の異常を調べる場合にだけ、健康保険で遺伝子の検査をすることができるのです。
このような遺伝子検査に用いる診断キットを、コンパニオン診断薬と呼びます。コンパニオン診断薬で、ある遺伝子に異常があるかどうかを調べて異常があった場合、その遺伝子異常に合った分子標的薬を使った治療が標準治療となります
薬が効かなくなる「薬剤耐性」問題
一方、コンパニオン診断薬で該当する遺伝子異常がないとなった場合は、ほかの治療法を検討することになります。
残念ながら、分子標的薬を長く使っていると、だんだん効かなくなってくることがあります。これをがんの薬剤耐性といいます。
薬剤耐性が起こるのは、がんが薬の攻撃から逃がれるために、遺伝子を変化させるからです。たとえば分子標的薬は、異常を起こしている遺伝子からできるタンパク質の「ポケット」に結合して、そのタンパク質の働きを抑えるものが多いのですが、がんは遺伝子を変化させてポケットの形を変えてしまいます。そうなると分子標的薬は結合できなくなり、薬が効かなくなってしまうというわけです。
がんに関係する遺伝子は200~300個ある
現在の遺伝子検査は、がんの発生に関わる遺伝子異常を調べるものがほとんどですが、がんの進行や転移などに関わる遺伝子異常も知られてきており、がんに関係する遺伝子は200~300個あると考えられています。
一人ひとりのがんは、これらの遺伝子のタイプがみな異なり、「個性」をもっています。がんの個性がわかれば、よりよい治療につながる可能性があるため、がんに関わる遺伝子を一度に調べて、がんの個性を明らかにしようという動きが始まっています。
そのために使われるのが、がん遺伝子パネル検査です。
数十から数百個もの遺伝子を一度に調べる
コンパニオン診断薬が一つか二つの遺伝子を調べるのに対し、がん遺伝子パネル検査では、がんに関係する数十から数百個もの遺伝子を一度に調べる
がん遺伝子パネル検査システムは、2023年11月現在、5つの製品が保険適用となっています。そのうちの一つは、国立がん研究センターが長年にわたって開発してきたものです。
コンパニオン診断薬が一つか二つの遺伝子を調べるのに対し、がん遺伝子パネル検査では、がんに関係する数十から数百個もの遺伝子を一度に調べます。
ただし、コンパニオン診断薬とは異なり、この検査で調べる遺伝子のなかには、分子標的薬が存在するものも、存在しないものも含まれています。そして、この検査を保険で受けられるのは、標準治療をすべて行って、これ以上、治療の方法がないとなった患者さんに限られています。