細胞は老化すると分裂を止めて老化細胞となり、動かなくなる。これは細胞分裂を繰り返すうちに損傷DNAの転写エラーが起きていびつな細胞が誕生し、それが体内で増殖し続けるのを防ぐ、がん抑制システムだと考えられている。
しかし、その一方で老化細胞が体内に居座り続け、それが蓄積していくと厄介な問題が起こる。蓄積した老化細胞からがん促進作用や炎症作用のある物質がまき散らされ、慢性的な組織損傷を引き起こし、がん、肝臓や肺の線維化、動脈硬化、糖尿病などに関係する炎症環境を生み出す。それが結果的に老化やがんにつながる。
ならば、体内に蓄積した老化細胞を取り除くことができれば、これらの疾患と共に老化を防ぐことができるかもしれない。そう考えるのは当然だ。
だからといって、全身に散らばっている老化細胞を、メスで切り取ることはできない。そこで考え出されたのが、免疫を使った老化細胞除去法だ。
老化細胞除去で注目されたのが、獲得免疫です。老化細胞の表面に出ている目印だけを攻撃するキラーT細胞に似た細胞を作って体内に注入。増殖させれば、体内の老化細胞を選択的に攻撃し、除去できるのではないか、という発想です
実は、この発想による医療技術は既に実用化されている。CAR-T細胞療法と呼ばれるもので、患者の血液から作ったCAR-T細胞と呼ばれる細胞を用いたがん治療法だ。主に白血病治療で成果を上げている。
■順天堂大と東大で注目研究
これを応用した老化細胞除去の研究が世界中で行われ、日本でも研究が進んでいる。
2021年には順天堂大学の研究グループが蓄積した老化細胞に対する抗体を作り、これを除去するワクチン開発成功を発表。ターゲットは、老化した血管内皮細胞の表面にあるGPNMBと呼ばれる老化抗原(目印)。開発されたワクチンを投与すると血管や臓器にたまった老化細胞に対する抗原が作られ、白血球などの免疫細胞が異物と認識して攻撃して体外に排出するという仕組みだ。
同研究グループによると、このGPNMBワクチンを高脂肪食で飼育したマウスに投与したところ、食後血糖値が低下したほか、肥満による糖代謝異常も改善、血管内のプラークも軽減した。また、早老症マウスに注射したところ、最大30週の寿命が40週まで延長したマウスもいたという。
さらに、人間なら70歳代の高齢マウスにこのワクチンを投与したところ、運動量や歩行速度が50歳代のマウス並みに改善し、フレイル(加齢や疾患により心身が老い衰えた状態)の進行が抑制されたという。
一方、老化細胞内で細胞死のプログラムを誘導する、セノリティックスと呼ばれる老化除去薬の開発も進んでいる。
こういった医学の進歩の記事を目にするたびに娘や孫たちの世代の方々がより健康的に過ごせる未来が来るのだろうな、と嬉しく思います
いつの日かがんや老化そのものを克服する時代が実現するのかもしれませんね