糖尿病になる子供や若者が世界中で増えたという。気になるのは生活習慣の乱れなどで発症する2型糖尿病だけでなく、インスリン分泌が枯渇する1型糖尿病が増えていることだ。
昨年6月の米国内分泌学会年次総会(ENDO2023)で子供や若者の糖尿病の新規発症についての発表があった。
小児病院の電子カルテデータを使い、新型コロナの期間前2年間(18年3月~19年2月、19年3月~20年2月)と、コロナ後1年目(20年3月~21年2月)、同2年目(21年3月~22年2月)を比較した研究である。
結果は、子供や若者の2型糖尿病の年間発症頻度はそれぞれ、63例、45例、109例、130例で、パンデミック中の増加が明らかになった。
米オハイオ州コロンバスの全国小児病院の研究グループが発表した。
「発表では体格指数(BMI)も増加していました。学校閉鎖や外出自粛で子供たちの身体活動や運動が制限され、在宅時間が長くなり、間食が増えたことなど生活習慣の乱れが2型糖尿病の増加につながった、との見方ができる内容でした」
気になるのは同時に子供や若者の1型糖尿病の増加も報告されたこと。年間発生頻度はそれぞれ、191例、193例、231例、262例とやはりパンデミック中に増加した。
「1型糖尿病は、生活習慣病の一種である2型糖尿病とは性質がまったく異なる糖尿病です。本来、外敵から身を守るために働くはずの免疫が、間違ってインスリンを分泌する膵臓のβ細胞を破壊することで発症します。子供や若者に多く、発症のピークは思春期だといわれています」
■ウイルス感染により関連する遺伝子の働きが変化するのではとの見方も
発症には地域差があり、日本を含めたアジアは北欧を含む欧州の20分の1ほど。
1型糖尿病は特定の遺伝子と関連するとの見方がある。
「1型糖尿病は通常は遺伝しませんが、特定の遺伝子を持つ人は家庭内発症が認められています。また、1型糖尿病の発症とウイルス感染との関連を示す報告も数多い。たとえば、エンテロウイルス、ムンプス、麻疹、サイトメガロウイルス、レトロウイルスなどの感染が引き金になってインスリンを産出する膵臓のβ細胞の死を誘発して発症したことが報告されています。なぜ、地域差があるのかはハッキリしていません。ただ、これらの感染症に強い人と弱い人がいて、その違いは1型糖尿病に関連する遺伝子の働きにあり、感染により、それらが変化するからではないか、との見方もあります」
同様の話は新型コロナにもある。
英国のキングス・カレッジ・ロンドンの研究によると、新型コロナ患者は感染直後、とくに感染後3カ月で糖尿病を発症するリスクが高くなり、23週後には元に戻るという。
新型コロナ患者42万人余りの20~21年の医療記録データを分析した結果だ。
一方、米ペンシルベニア州立大学医学部の研究グループが、400万人超の新型コロナ患者と新型コロナと診断されたことのない4300万人超の対象群のデータを分析した研究では、新型コロナ経験者は糖尿病の発症リスクが1.66倍に上昇することを明らかにしている。
注意したいのは、1型糖尿病が多い欧州ではすでに新型コロナ以前から1型糖尿病の増加が問題になっていた点だ。
「1型糖尿病患者を対象とした欧州の大規模疫学研究『EURODIAB』の一環で、13年までの25年間を追跡した調査があります。これを分析したところ、14歳以下の1型糖尿病発症数は年間平均3.4%増加しており、この傾向が続くと今後20年で2倍に増えるとしています。この結果は18年の欧州糖尿病学会の機関誌に発表されています。また、米国で実施された別の調査では1型糖尿病と診断された20歳未満の患者数は02~12年に1.8%増えたことが報告されています」
日本では、1型糖尿病患者数は糖尿病全体の5%程度しかおらず、まれな病気としか認識されていない。しかし、近年のウイルス感染症の流行などを考えれば、感染症による糖尿病発症の情報にも注意が必要だろう。
普通の風邪にも気を使うべきだ。