認知症高齢者が増えているということはよく話題になりますが、多くの人は、自分は大丈夫だろうと思っています。ところが、実は誰でも認知症になる可能性があります。
ある研究では、85歳以上の高齢者の3人に1人、そして90歳以上の2人に1人は認知症であるということが報告されました。
認知症になる最大のリスク要因は、高齢であるということ、すなわち長生きすればするほど認知症になる確率が高くなるということです。高齢化していく日本社会においては、認知症は、例えば癌のようにありふれた病気なのです。
癌の場合も、2人に1人の割合で、生涯の間に癌になる可能性があると言われています。
認知症とは、脳の働きが衰えて日常生活に支障をきたしている状態を言います。年を取ると誰でも脳の働きが落ちてきますが、自力で身の回りのことができていれば何とか生活できます。
「認知症のかなり進行したAさん」に医師が驚いたワケ
私たちは、以前、進行した認知症があるのに、とても上手にヘルパーによる介護を受けて暮らしているAさんの訪問診療を行っていました。 Aさんは、独居高齢者ですが、1日に2回ヘルパーさんに来てケアをしてもらっています。
親戚の人が隣の家に住んでいますが、日中は仕事があり、帰宅してから訪ねてくれます。 Aさんの認知症はかなり進行していて、他人との意思の疎通は困難なレベルです。 起きている時はニコニコと笑顔でよくしゃべりますが、意味はお互いに通じません。トイレは伝い歩きでほぼ自分で行きますが、時々失禁します。
Aさんは自分がデイサービスに出かけるのは嫌がるので、家にサービスを導入するようになりました。何人かのヘルパーさんが毎日順番に来ては、食事を作ったり、部屋を掃除したり、身体保清のケアをし、Aさんは相手が誰でも比較的スムーズにケアを受け入れます。
介護サービスがとてもうまく遂行できていて、私たちがいつ訪ねても部屋は綺麗に掃除されており、Aさんも清潔な服を着て、テーブルにちょこんと座っていました。
家族に直接介護されず、施設にも入らず、こんなに快適に自分の家で暮らせるなんて、と私には驚きでした。 穏やかで時間が止まったような日々が数ヵ月続きました。ところがある日、Aさんは部屋で倒れているところをヘルパーさんに発見されました。
すぐさま病院に救急搬送され入院治療を受けましたが、3日後に死亡しました。ピンピンコロリの見本のような最期でした。
こういう最期は、希望してもなかなか実現しませんが、自分の家でできるだけ長く過ごすためには、「他人からのケアをスムーズに受け入れる」という資質が大切なようです。