「誤嚥性肺炎」と「間質性肺炎」。いずれも近年よく聞かれるようになった病名で、語感の近さから同じような病気のようにとらえられがちだが、まったく似て非なるものだ
詳しくその違いを見ていこう。
「誤嚥性肺炎」は、本来なら口から食道へ入るべき食べ物や唾液などが、誤って気道に入ってしまい、その唾液や食べ物に含まれている細菌が肺を傷つけることで、肺炎を起こす。
「高齢になり飲み込む力が弱くなっていくと、食べ物や唾液が気道に入ってしまう可能性が高くなります。すると、口の中に700種類以上いると言われる菌が気管から肺の中に入って増殖し、肺炎を起こすのです。
特に、寝たきりになって飲み込む力が弱くなった人がなりやすく、そうした患者さんが誤嚥性肺炎になった場合、あまり時間が経たないうちに亡くなってしまうことが多い」
一方の「間質性肺炎」は、間質と言われる肺の壁の部分が炎症を起こすことで発症するものだ。医師の吾妻安良太医師が説明する。
「間質性肺炎になると、『肺線維症』といって肺が少しずつ線維化していきます。それに伴い肺が硬くなり、次第に肺活量が減って、呼吸が苦しくなっていくのです。いわば、肝臓が悪くなって肝硬変になっていく感覚に近い」
間質性肺炎は急性の場合を除き、1年以上の時間を経てゆっくりと進行していくのが特徴だ。
当初は階段の上り下りの際などに息切れが生じる程度だが、病気が進行すると、部屋の中の移動や、服を着脱するだけでも、痛みを伴う咳が出るようになる。その結果、最後は呼吸困難になり、命を落とす。
死の直前、体が弱った患者がかかることが多い誤嚥性肺炎に比べると、じわじわと長時間をかけて体を蝕む間質性肺炎のほうが苦しいと言われている。
間質性肺炎が厄介なのは、治療が難しいことだ。
「間質性肺炎になる原因は80以上もあると言われていて、その原因によって治療方法が違うのです。誤った治療を施すと悪化する恐れもあるので、なおさら治療が難しい。
また、初期のころは空咳が続くだけで、熱も出ず、痰も出なかったりするので、患者本人が肺炎にかかっていることに気づきにくいのです。医師の側も、ただの喘息だと誤診してしまうケースがあります」
さらに恐ろしいのが、風邪をひいたあとや、手術を行った後など、体力が弱っているときは、一気に間質性肺炎が悪化することだ。「急性増悪」と呼ばれる状態だが、こうなると治療は困難になり、死亡する確率が跳ね上がる。
予防するのが難しいうえ、放置している間に、長い時間をかけて悪化する間質性肺炎。「やたらと長い期間、空咳が続くな……」と思ったら、間質性肺炎の可能性を疑い、その診療に精通する医師に早めに相談したほうがいい